音楽教室 vs JASRAC 裁判のゆくえ

音楽教室 vs JASRAC 裁判のゆくえ
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音楽教室でのレッスンでも著作権使用料を支払う義務があるかどうかをめぐって、現在、大手楽器店と JASRAC(日本音楽著作権協会)の間で裁判が継続中です。
JASRAC は裁判にめっぽう強いので、今回もまた勝訴したら、支払い義務を負う範囲は拡大することが予想されます。

裁判に至る経緯

JASRAC は、ヤマハ系列や河合楽器製作所など大手事業者に対して、音楽教室でのレッスンとしての実演に関する著作権使用料の支払いを要求しました。これに対して、事業者側はレッスン中の実演は「演奏」ではないので支払い義務はないとして拒否、この対立が10年以上続いてきました。
その間、JASRAC はダンス教室等を相手取り著作権使用料を支払いをめぐる裁判等を起こし、いずれも勝訴してきました。そして、同じ音楽教室のカルチャーセンターや歌謡教室での著作権使用料の徴収を始めるに至り、ついに、2017年2月、大手音楽教室からも著作権料を徴収することを公表しました。
これに対して、大手音楽教室はすぐさま「音楽教育を守る会」を発足させ、わずか数か月で著作権使用料徴収に反対する署名を56万筆集めて世論を味方につけ、6月、東京地裁に「音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認訴訟」を提起しました。

裁判の争点

裁判の争点は、

音楽教室でのレッスンに著作権法で定める「演奏権」を及ぶのか

という点です。「演奏権」とは、

著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する。

著作権法22条

この「演奏権」をめぐって、「音楽教育を守る会」は次の3点を主張しています。

1.「公衆」に対する演奏ではないこと
音楽教室における演奏は、教師と生徒が教育目的で結合された特定かつ少数の者の間の演奏であり、「公衆」に対する演奏ではない。<略>

2.「聞かせることを目的とした」演奏ではないこと
音楽著作物の価値は人に感動を与えるところにあるが、音楽教室での教師の演奏、生徒の演奏いずれも音楽を通じて聞き手に官能的な感動を与えることを目的とする演奏ではなく、「聞かせることを目的」とはしていない。

3. 著作権法の立法目的(法第1条)にもそぐわないこと
教育のための著作物の利用は、第1条の「文化的所産の公正な利用」に含まれるところであり、また民間の音楽教室という社会教育なくして音楽文化の発展はあり得ず、社会教育における音楽教育は、まさに同条の「文化の発展に寄与する」という著作権法の目的を実現するものであり、このような著作権法の目的に背を向けるような第22条の解釈は許されない。

このうち、1 と 3 に対して、JASRAC は次のように主張しています。

公の演奏にあたる
楽器教室において音楽著作物を演奏する主体は、著作権法上の規律の観点から、当該楽器教室の経営者です。そして、楽器教室における音楽著作物の利用は不特定の顧客(受講者)に対するものですから、公の演奏にあたります。

著作権法上認められている権利の保護を図ることは、正に著作権法の趣旨を実現する
著作権法は、著作物の「公正な利用」と「著作権の保護」とのバランスを考慮し、権利が及ぶ範囲と権利を制限する範囲とを定めています。音楽著作物の「公正な利用」は、音楽文化の発展に寄与するものですが、同時に「著作権の保護」を図らなければ、文化の持続的な発展を実現することはできません。楽器教室という営利事業における音楽著作物の利用について、著作権法上認められている権利の保護を図ることは、正に著作権法の趣旨を実現するものであって反するものではありません。

JASRAC 楽器教室における演奏等の管理開始について(Q&A)

各論点について、法律家の意見を参考にしながら掘り下げます。

1. 音楽教室のレッスンは公の演奏にあたるかどうか

JASRAC の「音楽教室におけるレッスンは、公の演奏にあたる」という主張は、「ダンス教室における音楽著作物の演奏利用は公衆(不特定かつ多数)に対するもの」とした判例(名古屋高判平16・3・4)に基づくものです。

この判決では、ダンスレッスンでの音楽CDの利用は、ダンス教室による生徒(公衆)に向けた演奏であると認定しています。
これをそのまま音楽教室にあてはめるのは違和感があるかもしれません。
この点については、奥田聡子弁護士は、キャッツアイ事件(最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決)で示された「カラオケ法理」をふまえて議論しています。以下、奥田弁護士のブログを要約します。
まず、「カラオケ法理」とは、カラオケ店で実際に歌っているのはお客さんであっても、著作権の観点から演奏権を侵害している主体を規範的に捉えると、お客さんに歌わせて利益を得ているカラオケ店自体であるという考え方です。つまり、著作権侵害の主体を捉える際、「侵害行為を誰が管理・支配しているか」と「侵害行為による利益が誰に帰属しているか」という観点がポイントであるということです。
「カラオケ法理」をあてはめると、音楽教室では、たとえ実際に演奏しているのは生徒でも、演奏させてレッスン料という利益を得ているのは音楽教室だから、音楽教室は演奏権を侵害している主体であるということになります。

ピアノレッスンに著作権使用料?~JASRACと音楽教室の対立 奥田聡子

2. 音楽教室におけるレッスンは「聞かせることを目的とした」演奏なのか

これに対して、JASRAC の反論は明らかになっていません。
しかし奥田弁護士は、たとえ「聞かせることを目的」ではなく、技術指導が目的だとしても、ダンス教室と構図は同じだから、この主張が認めらるのは容易ではないと予想しています。

以上、2点に関しては、奥田弁護士の考察は説得力があります。

3. 民間の音楽教室での教育は「文化の発展に寄与」するから権利が制限されるべきないのかどうか

「文化の発展に寄与する」の主張が認められる可能性は法律上、低いかもしれません。
というのは、著作権法では、利用者が著作権者の許諾なしに自由に利用できる範囲を「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)」のように具体的に規定するため、その適用範囲は非常に狭いからです。

ですが、この裁判が多くの人の関心を集めているのは、まさにこの点です。
音楽文化を守る会が指摘するように、民間の音楽教室がなければ、学校の音楽教育だけでは音楽大学にさえ入れないというのは自明のことです。
また、大人が趣味として受ける音楽レッスンも、音楽に対する理解を深め、文化の受容を広げているという意味で、「文化の発展に寄与している」といって差し支えありません。
音楽教室が営利目的だからといって、レッスンにまで著作権使用料の徴収を認める現行の著作権法はおかしいのではないでしょうか。現行法は現在の著作権者の利益を優先させるあまり、著作権者の許諾なしに自由に利用できる範囲を狭く取りすぎています。

アメリカの著作権法に詳しい城所岩生弁護士は、利用目的が公正であれば、著作権者の許諾なしにその著作物の利用を認めるアメリカ式の「フェアユース」という方向に、著作権法を改正しようと訴えています。

声明 「著作権法改革により日本を元気にすることを提案します」城所岩生

今回の裁判が、現行の著作権法の問題点をあぶり出し、著作権法改革の大きなうねりとなることを願っています。

まとめ

音楽教室でのレッスンでも、著作権使用料を支払う義務があるかどうかをめぐって、現在、大手音楽教室とJASRACの間で裁判が継続中です。
争点は 音楽教室でのレッスンに著作権法で定める「演奏権」が及ぶのか という点です。これまでの判例からすると、音楽教室側は不利な状況にあります。しかし音楽教室のレッスンがこれまで「文化の発展に寄与」してきたのは明らかです。そんな音楽レッスンにまで著作権料の徴収を認める現行の著作権法は改革が必要です。

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